2020.03.27
熱コラム
伝熱基礎式によるヒーター設計の事例
以前の熱コラムで、雰囲気温度によってヒーターの温まり方が異なるというお話をしました。
環境温度によって、温度が上がる速度、すなわち昇温カーブが変わる原因を実験データからご説明しました。
1つ目に環境温度によって放熱量が異なること、2つ目に放熱量は環境温度と物体の温度差が大きいほど増える、ということをお話しました。
今回はこの記事に絡めて、常温以下の環境温度における「保温」の事例についてお話したいと思います。
保温について考えてみる
常温以下の環境で効率的に「保温」をするには?
お客様から次のようなご依頼を頂きました。
Question: | 屋外で使用する器具の内部にある電子部品を保温したい。 使用環境として最低-30℃を想定しており、電子部品の動作保証温度が最低-10℃であるため、余裕をみて0℃以上としたい。 所要熱量(W)の算出及び、ヒーターの選定をしてほしい。条件は以下の通りです。 ![]()
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お客様とお打ち合わせし、電子部品の筐体の内側にシリコンラバーヒーターを装着する案で検討することとし、下記のモデルにより所要熱量を計算しました。
伝熱基礎式を使用した熱量計算
対流熱伝達が必要熱量の90%
ポイントは、十分な温度を保持した状態の対象物が、氷点下環境へ移動し、加熱が必要になる、という点です。
計算の結果、③の対流熱伝達が所要熱量の90%程度を占めることがわかりました。
器具が常時氷点下の雰囲気にある場合は、温度を上げるための熱量と熱損失の両方を加味する必要があります。
今回は、器具全体が常温の大気によって温められている状態からヒーターの通電を始めるため、ヒーターの熱量は、(ほぼ)-30℃環境へ置かれた際の熱損失を補う分のみで良いということになり、相対的に必要熱量が低く抑えられそうです。
また、今回は保温対象である電子機器のすぐ近く(筐体内側)へヒーターを設置することができたので、その点でも熱量が抑えられます(※)。
結果、熱が必要な時にすぐにヒーターが応答できるようになりました。
このように、必要熱量の内訳まで考えることで、ヒーターの取付け場所も最適化することが出来ます。
※対流熱伝達の量は環境に大きく左右されます。
対象物やヒーターが外気に直接触れる場合、主に風によって、対流熱伝達量(熱損失)が大きくなると想定されます。
風速によっては、静止大気の10倍以上の熱量が必要になることも有り得ます。
【伝熱基礎式】
代表的な3つの式をご紹介いたします。
- 固体伝導 :「フーリエの法則」
- 熱伝達(対流) :「ニュートンの冷却法則」
- 熱放射 :「ステファン-ボルツマンの法則」
今回ご紹介したのは比較的シンプルな事例でしたが、3つの式を複合させることで、より複雑なモデルでも、シミュレーションソフトを用いずに計算することが可能です。
また、伝熱計算を行うにはまず、熱の伝わり方を正確にイメージできるかどうかが大切です。
公式を知っているだけは不十分で、経験知も必要になります。
ヒーターの製作だけでなく、計算などでお困りの場合でも、ぜひお声がけください。