COLUMN

2020.02.21

Q&A

真空と大気で温まり方は違うのでしょうか

「うち、真空なんです!!」

突然ですが、こんなことをおっしゃる方、身近にいらっしゃいますか?
おそらくですが、・・はい。という人はいないはず。
真空パック、真空チルド、真空・・真空・・・。真空といえば、このくらいしか出てこない・・。真空なんて、私たちの生活で身近じゃない!そんな風に感じますよね。
でも、真空環境は、産業分野においてはとっても汎用的です。

真空環境でのものづくり

様々な産業分野において、真空環境でものづくりが行われています。
ものづくりが行われている!と来れば、ありがたいことに、そこで活躍させて頂けているのが、我々河合電器製製作所の電気ヒーターです。

真空環境の作り方

真空環境を作るには、密閉空間内の空気をポンプで引いていくのですが、一気に引けるものではなく、この表のように、真空度が高くなってきますと、粗引き用、本引き用と2種類以上のポンプで空気を引いていきます。

真空度表

こちらの表は、その真空度と圧力をグラフ化したものです。
真空下では空気などの物質が著しく少ない状態となりますので、当然酸素も少量しか存在しません。真空下では食べ物の酸化を防ぐことができるため、料理などでも活用されていますね。

真空環境で使うヒーターを検討したい!

真空と大気って温まり方は違うの!?

さて、それでは真空中で使うヒーターはどのようなものが良いのでしょうか。
教えて!河合電器!ということで、このような質問をご用意しました!

Question: 真空中と、大気中と、温まり方に違いはあるのでしょうか。
真空中では気体がないため、熱移動の3原則(伝導、対流、輻射)のうち、伝導、対流で熱移動が起こりにくいことを聞きました。
実際に熱の伝わり方はどのくらい違うのでしょうか?
KAWAI: 輻射に関しては、太陽が地球に熱を伝えるように、真空化であっても熱を伝えます。
伝導に関しては・・・実際に試験したデータをご覧ください!!

こちらの、真空チャンバーで真空環境を再現し、実際にヒーターを
結果やいかに?!

試験方法

試験方法

2つの環境で比較試験をします。カートリッジヒーターの熱盤を用意し、大気環境、真空環境、それぞれでヒーターを通電し、温度を上げていってみます。

試験プレート図面

また、熱盤の端部と中央との温度ムラにも差があるかを確認します。

通常のカートリッジヒーターを使用しますと、ヒーターから発生するパーティクル(不可視)で、真空度が落ちていってしまいますので、特殊な碍子を付けた仕様を選定しました。

試験結果

試験結果の注目ポイントは大きく分け、3つありました。

  1.  熱盤の温度ムラ(温度分布)に差が出る
  2. ヒーターと熱盤との温度差に差が出る
  3.  熱盤の昇温速度に差が出る

それぞれのポイントを見ていきましょう。

ポイント1. 熱盤の温度ムラ(温度分布)に差が出る

測温ポイント

まずは、熱盤の温度分布の差を確認してみましょう。

一般的に、熱盤の中央部は、外周からのもらい熱があり、温度が上がりやすいと言われています。それに対し、外周部は、中央部に比べると、体積当たりの表面積が大きく、放熱量が多いので、温度が上がりにくいと言われています。

このような、中央部とはし外周部とのムラのことを温度ギャップと呼び、熱盤全体で均一な熱がほしい場合では、対策を検討する必要があります。

大気中と、真空中とでどの程度の温度ムラが出たのでしょうか。試験結果を見てみましょう。

ondogap結果

100℃、200℃、400℃、熱盤をそれぞれの温度に制御した時、熱盤の中央部と外周部の表面温度を計測し、その温度の差を、表にまとめました。

大気と真空とを比較し、温度差が少なかった方を赤字で記しました。
真空環境の測温結果に、赤字が目立ちます。このことから、真空環境は、非常に温度差が少なく、温度がなじみやすいことがわかります。

これは、真空中は放熱が起こりにくく、熱盤に熱がこもったことが要因です。

しかしながら、昇温時にフォーカスしてみていくと、大気環境に軍配が上がります。
昇温時は、真空環境の方で、比較して大きく温度ムラが発生しております。
これは、次のポイントで説明が可能です。

ポイント2. ヒーターと熱盤との温度差に差が出る

次に、ヒーターと熱盤との温度ギャップを見ていきましょう。
測温ポイント下記グラフの曲線は、それぞれ
 制御温度
 ①ヒーター碍子部
 ②プレート中央部
 外気温
を表します。

ヒーターギャップ100℃ヒーターギャップ200℃ヒーターギャップ400℃

全体的に大気環境では小刻みに波を打つような動きをしているのに対し、真空環境は大きく緩やかな動きをしているように見受けられます。

一か所、注目してみて頂きたいのですが、熱盤中央部の温度が制御温度に近づいた辺りを見てみてください。
大気環境では、碍子部の温度は、熱盤中央部よりも全体を通して低くなっていました。しかし、真空環境では、逆に碍子部の温度の方が高くなっているときも一定の割合として見られます。これは、真空環境ではヒーターの発熱部分から、熱が、熱盤へ伝わる方が、碍子へ伝導するよりも遅くなるときがあると見られます。

ヒーターと熱盤との間には、ミクロ単位で見れば、極少量の隙間(=クリアランス)が存在してしまいます。この隙間には空気が存在するため、空気層と呼んだりしますが、空気層は熱伝導が悪く、熱の伝えを阻害するため、可能な限り排除したいものですが、どんなに精度よく加工をしたとしても、現実的には0にすることは難しいです。
真空中では、この空気層には空気が存在しません。ヒーターと熱盤が接触していなければ、熱を伝える手段は輻射のみとなり、非常に熱の伝わりが悪くなります。

これを踏まえ、昇温中のカーブをヒーター端子部、熱盤とそれぞれで見て頂きたいのですが、熱盤が制御温度に達するまで、ヒーターは制御温度を超え、かなりの温度まで上昇したと考えられます。それからやっと熱盤まで熱が伝わり、センサーが反応し、ヒーターの制御がかかりやっと制御温度まで下がっていった。

真空中はヒーターに熱がこもりやすいのです。
この辺りは次のポイントにも共通しているところなのですが・・・

ポイント3. 熱盤の昇温速度に差が出る

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大気環境と真空環境、昇温の速度が比較しやすいよう、代表して200℃で制御した時のデータを抜き出し、一つのグラフにまとめてみました。

真空中の方の、昇温の遅さが目立ちますね。
ポイント2の通り、真空中はヒーターに熱がこもりやすいのです。

また、制御がかかり、再度ヒーターが復帰するまでのサイクルも、大気環境は150秒程度なのに対し、真空環境の方は1800秒になっても付記しておらず、長い間隔です。

そう、真空中は、熱がこもりやすいのと同時に、熱が逃げにくい。つまり、熱しにくく、冷めにくい環境だということです。

伝導の速さが遅くなったのではなく、放熱がないため、熱盤に熱がこもりやすいのですね。周りに自然の断熱材をまとっているイメージとでもいいましょうか。

熱がこもりやすいということは、熱が逃げにくいということなので、昇温の速度は速いのでは?と思われるかもしれません。ですが、こちらも先述のクリアランスが悪さをしており、ヒーターの熱が熱盤に伝わりにくいために遅くなってしまっているのです。

なので、裏返すと、一度なじんでしまえば、熱盤から熱は逃げにくく、比較的温度ムラを抑えながら、制御温度を維持しやすい、と言えるかと思います。

真空環境で使用可能なカートリッジヒーター

大気と真空は侮るなかれ。似て非なるものなり!伝わりましたでしょうか。
真空用hlp

こちらが、実験でも使用した、真空環境に対応したカートリッジヒーターです。真空用碍子がついており、真空環境を壊すことなく使うことが出来ます。

今回の結果で、真空雰囲気は、大気雰囲気と同等に考えることが出来ないことはわかっていただけたと思いますが、実際にヒーターを設計してみたい、という時には、河合電器製作所に、ぜひ一度ご相談ください。

カートリッジヒーターだけではなく、面状ヒーターのフィルムヒーター、セラミックの窒化ケイ素ヒーター等、他のヒーターもご提案が可能です。

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